SunFlower


“強”にしても冷たくなるなんてことはない。
それでも一応仕事をしている扇風機がカコカコと悲鳴をあげている。
譲柚は一番風が来るだろう場所に寝転がっていた。
この暑い盛りにクーラーが壊れてしまうなんてついてないことこの上ない。
修理の日は明日らしい。
其れまでの辛抱だが譲柚は暑いのが滅法弱かった。
かといって寒いのが強いかと聞かれてもいい答えは返せず、詰まる所気温の変化が苦手なのである。


行儀が悪いことは知っているが、フローリングはひんやりしていて気持ちいいからと、火照った頬をぴたっと引っ付けて日が暮れるまでぼんやりするのがこの頃の譲柚の過ごし方だった。




パタパタと足音がする。


ゆっくり目を開けると開け放たれた庭でノクスが麦わら帽子を手で押さえながら走っているのが見えた。
顔いっぱいに汗をかいているのも厭わずよくあれだけ遊べるものだと幾度も譲柚は感心する。そんな譲柚の視線に気づいたのかノクスが此方を向いた。
慣れた事だが少しだけギクっとしてしまう。そんな譲柚の様子には気づかないようにノクスが笑いながら譲柚の方に走ってくる。
床までくると、うんしょ、と器用に膝でにじりよってくる。裸足で遊んでいたのだろう、足の裏は真っ黒だった。一度そのまま家に上がってとても怒られていたのを聞いたので気をつかっているのだろうな、と譲柚はまた感心した。




「ゆずちゃんだいじょうぶ?」

返事の代わりにこくりと頷く。ノクスの汗の匂いが鼻腔を擽る。えへへ、と笑ってノクスが片手を譲柚に向かって突き出した。何だろうと目を見張っているとノクスは手を開け握っていたものを譲柚の目の前にパラパラと落とした。

「・・・なに」
「ひまわりさんのたね!」

歌うようにノクスが言う。とても楽しそうに笑うその顔が向日葵に見えてしまう程自分は熱に魘されているのだろうか。

「ゆずちゃんにあげるっ!みんなにはないしょだから!」

冗談なのか本気なのかノクスは口に人差し指を当てて内緒のポーズをした。貰っても、と思ったがとりあえず口には出さないでおく。ありがとう、と掠れ声で言えばノクスは水色の瞳をちっちゃくして笑った。そして譲柚の頭をぽんぽんと叩いて庭に戻っていく。






「だからゆずちゃん、がんばって!」

そう言葉を残しながら。