きらきら甘酸っぱそうに艶めく檸檬の輪切りを見ていたら無性に噛みつきたくなった。
思いついたら実行する、そんな行動派なあたしはいつものように思うがままにかじりつく。
そしたら厚めの皮が酸っぱくて苦くて唇がピリピリ痒くなって


いつの間にか忘れていたこと。
そうか、檸檬だって生きるのに、身を守るのに、必死なんだ



【だいすきなひと】



人間(ひと)を信じれない、と彼は言った。騙されて、傷つくのは嫌だと小さな抵抗をその悲哀の瞳で示している。ななめ45°下方の景色は何が面白いのだろう。人の歓喜ですら、感じることが出来ないのに。可哀想な人だと思う。伝えたい意志は体全身から吐き出されていると言うのにその口は固く閉ざしてしまう。声に出さないからわからないのか、信じないと信じれないは別物だということ。




しかし彼は人間(あたし)を信じたいと言った。震える足がその勇気を訴える。一体その足でどれほど多くのものから逃避してきたのだろうか。負けたくないと思いながらも。可哀想な人だと思う。傷付くのを恐れ、傷付かれるのを恐れ、自分と云う殻に籠もっていつかその殻が破られるのを待っている。けれど彼が自分で殻の中から抜け出そうと言うならば、あたしは助言をするしかない。上方45°の景色の方が綺麗だと。




こんなことしか出来ないあたしは葛だろうか。臆病なあたしはこの想いを伝えれない。けれどこんな溢れんとする想い、隠し通せる訳がない。だって彼がすきだから。所詮あたしも彼と一緒。剥き出しの独占欲があたしを殻の中に閉じ込める。







だって彼がすきだから。
だって、だって、だって、






















だいすきだから