いつになったら止まんねん。さっきから同じ話12回目やぞ。壊れかけたもとい壊れたラジオか?お前はよー。
心で呟く。刹那、香が冷え切った目を寄越す。
「ちょっと、なんか言った?」
「いえ、何も?」
「まあ顔に書いてあるけどね」
「うせやろ!?…って、んなわけあるかー!いちいちツッコむのも面倒くさいわ!!」
「面倒くさがることしてるもん」
「はいはい、そんで、上司が言うんやろ?にやって笑いながら『これだからお前は常人を脱しないんだ』って。奥さん?」
「何故分かる?流石だねぇ。奥さんではないけど」
「お前が何回も言ってるからや。Do you understand?」
面倒くさい性格はどっちなんだ、と呟きながら香は本日数杯目のアルコール飲料を胃に流し込む。
月に何度かお世話になるいつもの居酒屋は、本日もかなり賑わっていて、馴染みの店員も忙しそうだ。
まあそんなことを気遣って追加のアルコールを控えるとかあり得ないけど。イケメン風の若い店員に呼びかける。
柘榴の様子を窺うと、壊れたラジオは何も喋らんか!オレとしたことが…。と一人談義をしている。わけわからん。
「っていうかお疲れなんやなー。ご苦労さん!今夜は奢りで。」
「何、気前いいね。」
「残念ながらお前のや…」
可哀そう…と泣きの演技をする柘榴を冷たい目でちらっと見やって、生中、と一単語発した。すると、オレも、と言って何時の間に飲み干したのだか横から空いたグラスがにゅっと突き出される。
柘榴のこういった性格は楽だ。気遣いなんてしなくても勝手に生きている。男社会で生きてはいるが、女社会とそう変わらない、ねちっこい部分を相当見てきた。女だからって先方の信頼も薄いと踏んで、手柄を横取りしようとする。そしてニヒルな笑いを浮かべながら言うのだ。
これだからお前は常人を脱しないんだ。
「生きやすい社会にならないかな」
「そうすんのがお前やろ」
「なんであたし?」
煌々と輝いた瞳と視線がぶつかる。何故かぎくっとする。常に意地が悪そうに笑っている柘榴の瞳は夕日の色だった。燃えた火。炎を模った赤橙は、香にとっては夕日だった。まだ、一度も見たことはないが、日没はこの位綺麗なんだろうと思う。それを見ると、自分がどうなるかなんてのも知っている。でも、というか、だから、夕日を傍に感じたい時は柘榴を呑みに誘う。
遠慮もなく身一つで付いてくるような人だから、先程の言葉は嘘なんかではない、いつも香持ちになるのだが、夕日を見たかっただなんて言えない。だから何も言わず、夕日に投資する。
「期待してまっせ、天才科学者さん?」
「黙って」
ニヤニヤ笑う柘榴の頭を叩きながら、本当に自分に期待していいのだろうかと問う。自分は常人ではない。しかし、天才でもない。毎日無我夢中で突っ走っていたらいつか何かが見えるだろうか。その時の夕日は綺麗なんだろうか。
先が真っ暗で何も見えない道を、今はただただ歩いている。そこに照らされる赤い灯は、案外心強いものである。
忘れる日のために
(辿りつくその瞬間、自分は目的を見失っていないだろうか)