防波堤に二人並んで腰を下ろして足をぶらぶらさせながら先ほど買ったシュークリームを頬張った。シュークリームにしては珍しく生地はサクッとしていて、シナモンがかかっているのも一役かってとても香ばしい。そんな生地とは対照的に中のクリームは「本店自慢!!」と店の前の看板で主張されていたようにふわふわとしていて甘いけれど、癖はそれほどなくてクリームの類が苦手な人でもぺろっと食べれるものだった。
「おいしーい!」
もぐもぐと口を動かしながら満面の笑みで秘慰湖が言った。隣で無花果も口を動かしながらこくこくと頷いた。
「でしょでしょ!!このお店見つけた時はほんと感動だった!!」
「凄くおいしーですー!!」
店員が男だった為に半泣きだった秘慰湖も先ほどのことはもう覚えていないようににこにこしていて、無花果は安心した。
次いで怯えられた店員の、少し傷付いたような顔を思い出して笑ってしまう。大して厳つい顔付きと言うわけでもなく寧ろ穏やかそうな顔付きだったから、不憫さは倍増だった。
「どうかしましたか?」
「ううん、ちょっとね、思い出し笑い」
疑問符を浮かべている秘慰湖を見ていたらまた可笑しくなって今度は声を立てて笑った。
一度つぼに嵌ると、それを治めることなんて容易くない。頑張って堪えようとすればするほど笑けてくる。
笑い止まない無花果を見て初めはきょとんとしていた秘慰湖も可笑しくなってきたらしく、あははっと笑い出した。最終的にはもう何が可笑しいのかわからないけど二人で腹を抱えて大声で笑った。
「あー笑ったあ…」
「け、結局、何が面白かったんですか?」
「んー秘密!」
「えっ酷い!」
何やら抗議しようとしている秘慰湖を尻目に無花果は残りのシュークリームを口の中に放り込んだ。秘慰湖もシュークリームのことを忘れてしまっていたらしく、慌てて指に垂れそうなクリームをペロッと舐めた。
「次どこいこっか?」
無花果が防波堤から降りてお尻の汚れを払うと秘慰湖も同じように立ち上がった。すると急に立ち上がった為か秘慰湖の体はふらっと揺れた。
きゃあっといい秘慰湖は慌てて手を伸ばす。無花果もとっさに手を伸ばして秘慰湖の手を掴んだ。
危機一髪の所で海へ落下、は回避できたものの、地面で膝を打ったらしい。いたたた、としゃがみ込む秘慰湖の顔を覗き込むように無花果もしゃがんだ。
「危なかったねー大丈夫?」
「…はい、えへへ、私しょっちゅう転んじゃうから、慣れっこなんです」
涙目になりながらも秘慰湖が可笑しそうに笑うので釣られて無花果も笑った。ひとしきり笑った後、無花果は思い付いたように口を開いた。
「ねえ、さっきの、何で笑ったかって言うのね」
「はい?」
「教えてあげる」
「はい!」
「秘慰湖といるのが楽しいからだよ」
YOU
(あなたが、いるから)