丁寧に包装されたプレゼントには、ご丁寧にドライフラワーまで付けられていた。
西国の紅茶なんだって。と、彼は渡す時にそう言った。
西国であれ東国であれ、我が家には全世界の紅茶が揃っているが、そうなの、ありがとう。とだけ言って受け取った。
プレゼントの中身ではない、気持ちが大事なんだと、昔、好きだった人も言っていたし、自分もそうだと思った。
好きだったら、何でもいい。
お嬢はなんでも嬉しそうに貰ってくれるね、と微笑んだ優しい顔を思い出しながら、並木道を歩いた。
辺りは一遍黄色く、足の下敷きになると落葉は擦れて、くちゃっと音を立てる。
あの角を曲がると、市場に着く。詳しくなったこの土地を、案内してくれたのも彼だ。
今日は足取りが軽い。
風除けと変装の意を込めたストールをすっぽりと頭まで被り、強くなり始めた風に飛ばされないようにしっかりと押さえて市場へと向かった。
たっぷりと時間をかけて雑踏を抜けた先は、急に大人しくなって、火から降ろされたヤカンのようだった。
そうだ、以前紹介されたカフェはこの辺りだったような。
どこよりも可愛いお店、と言っていたので、一つ一つを見比べるように見渡す。
しかし、可愛いお店を認識する前に、その姿を見つけてしまった。
思わずストールを押さえていた手が緩み、頭を覆っていたストールは簡単に風に煽られしゅるりと肩に落ちる。
プレゼントが入った紙袋も、ポトリと音を立てて落ちた。
蜂散さん、と呟くのと、お嬢?と後ろから声がしたのは、ほぼ同時ぐらいだった。
プレゼントの中身も、重要だよ。と、誰かが言ったのか、それとも自分が言ったのか。
お嬢の視線を追うと、見慣れたお店には蜂散さんの姿があった。そして、その隣には。
ああ、見ちまったか。なんて間の悪い。
茫然と立ち尽くすお嬢を、本当に哀れだと思った。
しかし、何時かは知らなきゃいけない現実だ。
そういう男なんすよ。ってね。
そう言ってもお嬢には届いていないみたいに、ただただ無表情で、一点を見つめていた。
ハチルさんもさ、お願いだからこっちに気付いて慌ててお店を出てこようとしないでよ。
姫のプライドに、余計に傷が付くだろって。
カタンッとドアを開けると、ヒヤッとした風が頬を刺す。ああ、苦手だ。
そんなことを思う暇があるなら、この状況を早く如何にかすべきなんだ。頭では分かっている。
小走りで一歩一歩と近づくにつれ、数時間前に会った端正な顔立ちがはっきりと目に映る。
ああ、やっぱり綺麗だ。隣の男以外が、全員視線を注いでいる程に。
1秒でも目を逸らすのが惜しいと感じる。
どうしよう、どうすれば。何も纏まらないまま、お嬢に近づく。視線は外せないままでいる。
刹那、自分に向けられていた視線がぱっと外されたかと思うと、くるっと向きを変えてそのままツカツカと行ってしまった。一瞬も迷う事無く。
その後ろ姿でさえ、鈴の音が鳴りそうなほど凛としていてとても、綺麗だ。
もう交わらない視線に、少し残念な気持ちになる。こんな状況に、残念なんて何とも不釣り合いで笑えた。
転はそんな俺の姿を見て、多分呆れたんだろう、はあとわざと聞こえるように溜息をつき、屈んで何かを拾った。
ああ、紅茶だ。西国の。
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